嘘でも共感されれば勝ち？SNS時代の“演出投稿”
任天堂の次世代ゲーム機「Switch2」の発表は、発売前から大きな注目を集めている。性能向上や新タイトルの話題に湧く中、予約をめぐる争奪戦も激化。抽選販売が主流になる中で、SNSでは“ある種の投稿”が目立ち始めた。
「どうしてもSwitch2が必要なんです。家庭の事情で通常の予約が難しくて…譲っていただけませんか？」
一見、事情があるように見える投稿だが、実際に譲ったユーザーから「その後、すぐ転売されていた」「話が虚偽だった」といった報告も相次いでいる。
中には“家族の不幸”や“特殊な事情”を装うケースもあり、善意で譲った人が裏切られる形になってしまうのだ。
これは単なる「ちょっとした嘘」ではない。共感や同情を利用して他人を操作する情報の歪みが、ネット上で拡大している現実である。
演出が“常識”になるSNSの危うさ
SNS上では、実際に困っている人だけでなく、「困っている“ふり”」をする人たちが目立つようになった。Switch2のような人気商品の争奪戦になると、
「共感を得れば譲ってもらえる」という前例が、悪用されてしまう。
たとえば、次のような投稿が複数確認されている。
- 「Switch2がないと家族関係が壊れそうです」
- 「心を落ち着かせるために必要なんです」
- 「経済的に厳しく、でも子どもとの絆を保ちたくて…」
もちろん、すべてが嘘とは限らない。しかし、こうした表現に過剰な演出が含まれているケースもあり、調査の結果、他の商品の転売履歴が確認されるユーザーだった、という例もある。
SNSでは、“演出された現実”が本当の声を押しのけてしまう構造が存在するのだ。
SNSの拡散力が“感情商法”を後押しする
感動的、同情的な投稿は、拡散されやすい。人はストーリーに弱く、たとえ確証がなくても「何か力になりたい」と思ってしまう。これがSNSにおける「共感ポルノ」と呼ばれる現象だ。
ネットメディア評論家の井上真琴氏はこう語る。
「情報の正確性よりも“泣ける話”や“いい話”が優先されてしまう今のSNS環境では、演出が報酬を生みやすくなっています。Switch2のような人気商品は、単に欲しいだけでなく“人を動かす手段”として使われるようになってしまったのです」
本当に困っている人が沈黙する現象
こうした演出投稿が氾濫することで、最も被害を受けるのは、本当に必要としている人たちだ。事実に基づいて支援を求めたとしても、「また“演出”だろう」と疑われ、支援が得られにくくなる。
譲った人も、「前回だまされたから、今回は無視しよう」と思ってしまう。
こうして、善意が冷め、信頼が薄れ、支援の輪が崩れていく。
対策はユーザー側の“見る力”
SNS運営側による対策が追いついていない今、私たちにできることは、情報の真偽を見抜く目を持つことだ。
- 投稿者の過去の投稿をチェックする
- 転売や詐欺の兆候（過去の販売履歴など）がないか確認する
- 感情を揺さぶられたときこそ、一度冷静になる
また、感動や同情を目的に拡散することが、結果として“偽善”の助長につながることもあると意識することが大切だ。
まとめ：嘘が現実を押しのける前に
Switch2をきっかけに露呈したSNS上の“感情演出合戦”。欲しいものを得るために、嘘が美談に化ける構造は、やがて社会全体の信頼関係を壊してしまう。
本当に困っている人に届くべき支援が、派手な演出に埋もれてしまう現実。
「共感されやすい嘘」が「地味な真実」を駆逐するような社会でいいのか。
私たちは、誰かの“演技”の観客になる前に、一度その舞台を疑ってみるべきかもしれない。
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