概要
「あれ、昨日の夕飯、何だったっけ?」と嘆く瞬間を経験したことがある人、きっと少なくないだろう。日常の記憶が突然抜け落ちるこの奇妙さ。まるで映画「メメント」の主人公のように、自分の日常すら信用ならなくなる時がある。実はこれは脳科学的に見ても珍しい現象ではないと専門家は語る。「日常記憶の抜け落ち」の秘密を探りながら、私たちが日常できる記憶力向上のコツを、専門家へのインタビューを交えて解説していく。
昨日の夕飯問題、実は脳の正常な仕組み?
「昨日、何を食べたっけ?」「出かける時スマホを持ったか覚えてない!」そんな日常のちょっとした記憶の喪失、実は脳が正常に動作しているからこそ起きる出来事だという。
脳は不要な情報を忘れるプロフェッショナル
日本の神経科学の専門家である国立精神・神経医療研究センターの研究員達によると、「人間の脳は自らにとって重要でない情報については、意識的にではなく自動的に『メモリ解放』してしまいます。昨日の夕飯がそこまで特別でなかった場合、翌日に記憶として残らなくても何ら不思議ではありません。」と笑顔で語る。
いわば脳はスマホのストレージと同じで、不必要な写真や動画を定期的に削除するかのように、日々大小さまざまな記憶を積極的に整理しているのだそうだ。
メメント的な日常、その危険な勘違いとは?
「あれ? もしかしたら自分は記憶障害なのか?」そんな風に不安になることはないだろうか。しかし、専門家によれば、日常の細かい情報の忘却はほとんどの場合正常と言っていいそうだ。
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東京大学医学部附属病院神経内科の専門医によると、「重要な約束や日課を何度も忘れる、またはそれによって日常生活に大きな支障をきたすレベルになると要注意です。しかし夕飯のメニューや小さな出来事を忘れる程度なら、正常範囲内でしょう」と安心のメッセージを送る。
忘却を逆手に取ったジョークで気楽に?
私たちは時にこうした正常な記憶の揮発性をユーモアで楽しむことも出来る。「昨日のご飯? まあ、覚えてなくてもいいか。”メメント”みたいに体中にタトゥーするわけにもいかないし」といったように、時には忘却も人生を楽しくするスパイスだと笑い飛ばしてしまうのもよい心構えかもしれない。
日常の記憶を鮮明にする3つのコツ
それでもやっぱり、昨日何を食べたか記憶できていたら、買い物や栄養バランスを取るのに便利だろう。以下に専門家が紹介する日々の記憶を明瞭に保つ方法を紹介しよう。
①感情や感覚とセットにして記憶する
「ただ夕飯を作って食べる」のではなく、その時感じた嬉しさ、美味しさ、あるいは調理の際の香りや食感などの感覚的情報と共に覚えると脳に残りやすい。
②日々の活動を明確化・具体化するクセをつける
料理日記やスマホの写真など簡単に日常を記録する方法で記憶を鮮やかにすることが可能だ。記録して再確認することで脳が重要性を再認識し、「消去されがちな」日常の小さな出来事も記憶に定着しやすくする。
③十分な睡眠と適度な運動を忘れずに
意外に聞こえるかもしれないが、記憶力アップの鍵は健全なライフスタイルにある。脳の記憶形成や定着には運動と睡眠が不可欠とされており、散歩やウォーキングなど簡単な運動、良質な睡眠をとることで日常の記憶が定着しやすくなる。
AIが示唆する未来像:「外付けメモリ」が当たり前に?
今後AIやテクノロジーが発展すると、日常のちょっとした記憶すらデジタルで補完される可能性もある。脳科学とテクノロジー両者の発展によって、日常の些細な忘れものが大きな問題になる場面は減っていくだろう。
しかし、それでも忘れていいことがある
とはいえ、人間が忘れられる力はむしろポジティブに考えるべきだと、専門家は笑って強調した。「すべてを覚えていたら人間は壊れてしまいます。細かなことを忘れられる能力はむしろ『正常かつ健康的』です。私たちのメメント的な日常を楽しむ心の余裕も必要ですよ。」
まとめ
「あれ?」と日常の細かい記憶を失うのは異常ではなく、むしろ脳の正常な整理作用であることが専門家から示された。ちょっとした記憶の抜け落ちは心配せず、ユーモアで乗り切ってもいい。一方、日常記憶を高めたい場合は感情や感覚とセットに記憶するなどちょっとした心がけが重要だ。メメントのような「記憶への不信感」よりも、忘れる力を前向きに捉える生活を送れるとよいだろう。
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